食品の安全神話を揺るがす事件がニュースとなり、また、一方で食品産業のボーダレス化が進むなど、食品産業を取り巻く環境が大きく変化しています。こうした中で、長年にわたり農林水産省で食品安全に取り組み、最近ではISO22000の国際会議にも参加されてきた財団法人日本食品分析センター テクニカルサービス部部長 湯川 剛一郎氏をお招きして、食品安全マネジメントシステムについてLRQA ジャパン 星 実 審査員との特別対談を行いました。
食品安全マネジメントシステムを、ハードありきで考えないことが大切
- 湯川
- まず、食品安全マネジメントシステムの動向からお話ししますと、ISO22000については、2005年の規格制定から5年が経ち、ようやく規格内容が定着してきました。食品安全マネジメントシステムの検討を行うISO/TC34/SC17ではそうした状況を踏まえ、2009年に「確認」とすることを決定しています。また、食品流通業の国際ネットワークであるGFSIがISO22000と英国規格協会(BSI)が作成した一般衛生管理(前提条件プログラム:PRP)の規格であるPAS220を組み合わせたFSSC22000をベンチマークしていることに対応し、2009年にはPAS220の内容をそのままISO規格化したISO22002-1も制定されました。PRPに関する規格については、現在、SC17において一次産品やフードサービスについて検討が行われており、また、BSIでは引き続き、容器包装や飼料のPRP規格について検討が進められているようです。
- 星
- FSSC22000については、国内でも、世界的飲料会社や流通産業などが承認して積極的な取り組みを開始するとともに、多くの国内食品企業も活動を開始しています。LRQAジャパンでは、これまでのISO22000に加えてFSSC22000の認証登録機関としても承認され、すでに審査サービスを行っています。食品安全マネジメントシステムの普及・運用状況についてお聞かせください。
- 湯川
- 日本には、以前から食品衛生法という法律に基づいた食品安全のためのシステム(許可制度や規格、基準の義務付け等)がありました。一方で、ISO22000やFSSC22000などの食品安全マネジメントシステム規格に基づく認証制度は、法律に基づいたものではなく、安全管理の考え方が浸透している組織に与えられる第三者機関のお墨付きです。しかし、食品安全マネジメントシステムが人の健康に直接関係することがらを取り扱うものであることから、認証された組織が食中毒を引き起こしてはいけないと、絶対の安全を意識し、必要以上に厳格に運用されているように感じています。法律に基づく制度ではないのですから、もう少し、肩の力を抜いて運用してもいいのではないかと考えています。
- 星
- 確かに絶対の安全を意識しすぎて、形から入ってしまうことも多いようですね。CCPやOPRPを「ハザード分析を可能にするための準備」や「ハザード分析」をする前に、特定してしまい、ハザード分析が形骸化している組織も見受けられますが。
- 湯川
形式的にハザード分析を行い、結論ありきで加熱殺菌工程と金属探知器を導入すればいいと考えたのではないかと思われるHACCPプランも見受けられます。そうではなく、あらゆる可能性を考慮の対象としてハザード分析を行った結果としてCCPが導き出され、管理手段、許容限界が決定されていくことが大事なのです。ハードを充実させることで管理にかかる負担は軽減されます。しかし、ISO22002-1やPAS220に示されたハードの基準をすべて満たそうとすると設備コストがかかり中小企業にはとても敷居が高いものになってしまいます。ISO22002-1ではハード面に関する要求事項がかなり細かく規格されています。例えば“排水管は,加工ラインの上を通過してはならない。(§7.4)”という基準があります。排水管が加工ラインの上を通るというのは確かに避けるべきですが、建物の構造上の問題などからどうしても対応できない場合は、ISO22000に立ち戻り、ハザード分析を行い、必要な対策を講じることで要求事項をクリアすることも可能です。規格というのは、柔軟な運用ができるようになっていますので、規格の使用に際しても柔軟に考えればよいと思います。
これまでの安全管理を整理して、見える化することに意義がある
- 星
- 食品安全マネジメントシステムを導入する際に大切なのは、規格の要求事項がなぜそれを要求しているかを議論して、設備面ばかりでなく、運用面での施策を立てていくことが効果的だと考えています。
- 湯川
- 元々、ISO22000の前提条件プログラムは、組織の条件、製品の性質に即したものが求められています。中小企業が大手企業のような高度な設備を導入する必要はありません。お祭りの屋台の焼きそばで、食中毒がそう頻繁に発生しないのは、調理してすぐ食べることが前提の焼きそばに必要とされる衛生管理が行われているからだと言えます。小規模な食品企業の場合には、食品の性格や提供する条件に合わせ、明確に意識せずに行っている安全管理プログラムを洗い出し、整理して見える化することで食品安全マネジメントシステム導入への道筋が開けます。
- 星
- 食品メーカーでは、食品安全管理に関して様々なルールがありますが、これが不文律であったり、社内の常識として口頭で伝えていたり、「見える化」していないことが多いようです。食品安全マネジメントシステムを導入することにより、組織の歴史の中で培ってきた経験や知恵を手順書にまとめ、見える化できます。「見える化」することは、世代交代へ向けて技術やノウハウの伝承がしやすくなりますし、改善の機会にもつながるでしょう。これまで取り組んできた組織の食品安全管理の正当性を証明することもでき、従業員にとっても、顧客にとってもメリットは大きいですね。
- 湯川
- 食品を取り巻く法令、規則には食品衛生法やJAS法、各自治体の条例、任意制度の衛生規範など様々なものがありますが、食品安全マネジメントシステムに取り組む前提としてこうした様々な規制、基準にどのように対応するのかを整理することも重要です。
- 星
- フローダイアグラムをつくるときに、プロセスの目的を分析すると、各プロセスの目的や役割が明確になってきます。例えば、外箱詰工程を細分化して、袋の汚れ、シールの適切性、異物混入、ラベリング等の製品の最終検査および箱詰めのための工程と位置づけることにより、従来無意識で実施していた作業の目的が明確となります。結果として箱詰めの作業員には検査員という意識が生まれ、業務の質の向上、作業環境の改善に効果が期待できます。
フットワークが軽く常に改善を続けるシステム運用を
- 湯川
- 時が経つにつれて、加工工程など食品を取り巻く製造環境が変わるとリスクも変化してきます。食品安全マネジメントシステムのPDCAサイクルを回し、ハザード分析を繰り返すことによりシステムの改善や変化への対応が可能となるのも大きなメリットでしょう。食品安全マネジメントシステムのメリットは、失敗しにくい組織の実現です。事故につながらない細かな失敗の改善をフットワークを軽くして続けていくことで、大きな失敗を起こさない組織づくりに役立てていただきたいですね。
- 星
- 環境の変化といえば、食品産業のボーダレス化が進んでいます。以前は、原料調達から製造、販売までを国内で完結していましたが、現在は、海外の原料を調達して、製造も販売も海外で行うことが増えています。こうした状況では、以前のような属人的な技術管理で食品安全を確保していくことは難しいでしょう。ISO22000あるいはFSSC22000の規格に従い、日本の食品産業が昔から培ってきた食品安全のための技術や知恵を文書化、見える化することにより、海外にも展開できるシステムの構築ができると思われます。
- 湯川
- 国内でも就労形態が変化しており、派遣社員やパート社員、外国人労働者も働く職場が増えています。食品安全マネジメントシステムで必要な管理プログラムをマニュアル化することは製造現場の技術の水準を維持する上で有意義でしょう。また、海外の工場と取り引きを行う場合でも、相手がどんな管理を行っているかを把握するのに、ISO22000やFSSC22000を導入していると聞けば、管理のレベル、手法をある程度理解できます。同様に、今後、震災が落ち着き、日本の食品企業が再び海外を目指そうとするときに、世界共通の安全管理の手法を導入していることは有利に働くでしょう。ISO22000の認証取得に熱心な地域は、中国、インド、東南アジア、ヨーロッパを取り巻く旧東欧、北アフリカです。これらの地域は食品の輸出に熱心な地域です。食品の貿易でも国際的な基準が、重要な意味を持つ時代になってきたと言えるでしょう。
- 星
- 柔軟でフットワークの良い食品安全マネジメントシステムとして、大企業だけではなく中小規模の企業にも普及することにより、今後も食品安全を基本とした、日本の食品産業のさらなる発展に寄与するために、LRQAジャパンもその役割を果たしていきたいと考えています。
LRQA ジャパンでは、FSSC22000をテーマとした勉強会を毎月開催して、毎回多くの方々にご参加いただいてきました。
この勉強会の内容、レポートについては右記WEBサイトをご覧ください。http://www.lrqa.co.jp/food/

「2011年6月発行 Value Eyes Vol. 13 掲載」