LRQAのお客様の成功事例をご紹介します。
大阪市水道局
理事 山根 和夫 氏
工務部 計画担当 担当係長 石本 知子 氏
〒559-8558 大阪市住之江区南港北1-14-16 8F
TEL.06-6616-5514 FAX.06-6616-5519
http://www.city.osaka.lg.jp/suido/
食品のみならず、水の安全への関心が高まる中で、高度浄水処理の導入やISO9001の認証取得など水道事業体として先進的な取り組みを進めてきた、大阪市水道局。さらに、水の安全を守り抜くという、水道事業者としての最重要となる使命を果たすために、大阪市水道局では、2008年12月、全局をあげてISO22000の認証を取得した。
古代日本の外交・交通と交易の中心地であった難波宮の時代から、淀川を中心に水の都として発展しつづけてきた大阪。明治時代に入り淀川の水質汚染が進みコレラなどが問題となるとともに、防火対策の必要性が増す中で、大阪市に日本で4番目の近代水道が誕生した。以来、人口増加や産業発展で水道インフラは拡張を続けてきたが、高度成長の時代、かび臭や有害物質であるトリハロメタンなどの問題が出始めたことを契機として、大阪市水道局は、高度浄水処理の技術開発をスタートした。
「その後、周辺地域などの下水整備や規制の強化によって、琵琶湖を水源とする淀川水系の水質が徐々に改善されていきました。さらに、20年以上にも及ぶ調査研究の成果として、2000年に高度浄水処理を開発、導入したことで、水質を飛躍的に改善することができました。」
と工務部 計画担当 担当係長 石本 知子 氏は語る。高度浄水処理の全面導入は、全国の政令指定都市で初めての試みだったが、従来の浄水処理工程に加えて、オゾン処理や粒状活性炭処理の工程をプラスすることで、かび臭を100%除去。元々、規制値よりも低い値だったトリハロメタンもさらに低減できたという。
「昨今、ミネラルウォーターが大きく普及して、水道水があまり飲まれなくなってきましたが、高度浄水処理水はミネラルウォーターと飲み比べても、その美味しさは甲乙付けがたい、という評価をいただいているのです。」
と石本 氏は説明する。同局では、高度浄水処理水をボトル化した「ほんまや」を発売するなど、その水質のよさのPRを進めており、水道水を飲む市民も増加しているそうだ。
浄水処理というのは、日々変動する原水の状態に合わせて微調整を加えながら処理しなければならない。高度浄水処理を導入した市内3つの浄水場では、導入後、数年が経ち、運用ノウハウが蓄積され、管理技術も日々アップデートされていった。しかし、そうした運用、管理のノウハウは標準化できていなかったと、石本 氏は語る。
「元々、浄水場には様々な管理指針があり、また、高度浄水処理の導入時にも運用マニュアルを作成していたのですが、一度つくったマニュアルはなかなか更新されず、実際の作業手順とマニュアルの内容がかい離するようになっていたのです。」
また、同局では、それまで浄水場ごとに管理の仕組みが構築されていたが、これを統合した集中管理体制への移行が予定されているため、それに対応できるマニュアルが必要となっていた。さらに、2003年には厚生労働省の水道水質基準が改訂され、水質検査の質を確保するために、第三者による信頼性保証システムの導入が必要になったという。

「食の安全が求められるように、水の安全を守ることは、我々水道事業体の最重要課題。国の基準ももちろんですが、我々自身が水の安全を守るために組織的な対応をしていかなければなりません。そこで、高度浄水処理の技術を活かし、確実に運用が行える管理体制を構築するために、浄水部門でISO9001の仕組みを導入することとなったのです。」と理事 山根 和夫 氏が語るように、同局の浄水部門は、2006年11月にISO9001の認証を取得した。
ISOを導入する際、マニュアルづくりをコンサルタントに依頼する組織も多いが、同局では、すべて職員たちがマニュアルをつくり上げたと、石本 氏は語る。
「自分たちでマニュアルを作成しましたので、ベテラン職員たちの頭の中だけに蓄積されていた技術ノウハウも、うまく文書化することができましたね。また、技術ノウハウの共有化、技術レベルの標準化も実現できました。さらに、PDCAサイクルによって、定期的にマニュアルの見直しをかけ、現場の作業手順とマニュアルが一致するようになりました。」
さらに、こうした取り組みが、職員たちの意識改革にもつながり、より信頼性の高い管理体制の構築を実現した。
高度浄水処理とISO9001を導入してきた同局だが、食の安全がニュースなどを大きく賑わせる中、水道水の安全性について市民から問い合わせが入るようになったそうだ。また、水道界では、食品衛生管理基準HACCPの手法を取り入れた“水安全計画”の策定が提唱されるなど、より高い信頼性が求められるようになったという。こうした状況下で、同局では、ISO9001とHACCPが一体化した食品安全マネジメントシステムISO22000の認証取得に取り組むことになったと、山根 氏は説明する。
「水の安全と一言でいっても、浄水場だけではなく、管路を通って配水して蛇口をひねるところまで、一貫した安全管理の取り組みが必要となります。さらには、市民の方々と双方向のコミュニケーションを取りながら、信頼感を高めていくことも大切です。そこで、“農場からフォークまで”という、一貫した食品安全の管理システムを構築できるISO22000が、水源から蛇口までの水の安全管理に取り組んでいる我々にとって最適ではないかと考えたのです。」
ISO9001では、浄水部門に限った認証取得だったが、ISO22000では、設計部門、給配水部門、営業部門、総務などの事務系部門も含めた、全50組織で認証取得することになったという。
とはいえ、当初は総務などの事務系部門などはISO22000への理解が進まず、また、総勢2,000名近くの大所帯のため、何かひとつのことを周知するにも大きな苦労を要したそうだ。
「水道局長が“ISO22000は難しいものではなく、日々の業務を改善するためのツール”と各部署に話し、また、ISO事務局では、分かりやすくISOを解説した“ISOニュース”を配布しながら繰り返し情報発信を行い、理解を深めてもらうようにしましたね。」と、工務部 計画担当 本郷 伸和 氏は語る。
ISO9001に引き続き、ISO22000でも、職員自身でマニュアルづくりを進めていったそうだ。また、ISO22000のハザード(危害要因)分析について、石本 氏は次のように語る。
「水の安全に関するハザードの分析、評価を進めていくと、一番リスクの高い水源事故対策なども従来のマニュアルでほぼカバーできるなど、これまでの対策をISOのシステムにのせるだけでよいことが分かりました。しかし、ハザード分析を行うことで、リスク対策が整理でき、またその目的もより明確になったと感じています。」
審査の際には、食品の現場を熟知した審査員の指摘によって、より高度な安全管理体制を構築できたと、工務部 計画担当 白川愛 氏はLRQAの審査を評価する。
「沈でん池で照明が割れて落ちた場合のリスクなどを指摘され、食品という観点からこれまで気付かなかった点にも目を向けることができました。」
こうして、2008年12月、同局では、公営の水道事業体としては世界で初めてとなる、ISO22000の認証を取得した。
この認証取得によって、浄水、給配水、設計、営業、総務など、局全体で水安全チームを結成。一貫した情報共有ができるようになり、何か問題が起こった場合でも、局全体で改善に向かって取り組める体制となった。さらに、山根 氏はその効果について、次のように力説する。
「水道水の安全という切り口で、それぞれの部署が明確な目標を策定して、業務を進めていく。さらに、その達成度、問題点を把握して、改善していくことが、大阪市の水道事業が未来永劫持続していくために不可欠となる、より効率的な事業展開、そして、市民の方々からの信頼性向上につながっていくはず、そう考えています。」
長い歴史の中で培ってきた技術力、管理ノウハウを持つ同局では、現在、広域連携や海外協力など積極的な取り組みを進めている。
「将来的に、水道事業を持続していく上で、人口の少ない周辺の水道事業体への技術提供や災害対策などの連携が必要となっています。また、アジアを中心として、まだ、水道が整備されていない国々への技術提供も求められています。いち早くISO22000を取得した我々が、主導的立場としてこうした事業を推し進め、これからも水の安全を守り抜いていきたいと考えています。」
と語る山根 氏の熱い眼差しからは、歴史ある水道事業体としての誇り、そして、今後のよりグローバルな活躍を期待させてくれた。
食品のトレーサビリティが求められているが、大阪市水道局では、水道水のトレーサビリティシステムを構築している。これは配水場を含めた市内給水栓40箇所に水質遠隔自動監視装置を設置して、水質と配水系統、流達時間から、どの浄水場から、いつ配水された水道水かを特定することができるもの。これによって、市民の方々から何らかの問い合わせがあった場合でも、水道水の原水や浄水工程などを把握して、情報提示することができるという。
ISO22000の活用で、ハードとソフトをうまく連携。
水の安全管理のロールモデルに。
私は、以前清涼飲料水のメーカーに在籍しておりましたが、当時の大阪市水道局様の高度浄水処理導入は、大きなインパクトがありました。メーカーにまでその技術が波及してきたのです。また、ハード(高度浄水処理技術)だけで満足するのではなく、ISO9001でソフト(管理体制)も整備して、さらに、ISO22000を全局で導入されたことには大きな感銘を受けました。まさに、組織が一丸となって事業目標である「より安全で良質な水道水をより安価で公正な料金でお届けすること」を実現する体制を構築されたのです。大阪市水道局様の歴史と誇りを感じることができました。
LRQA機関紙「Value Eyes」に掲載されている事例紹介記事です。